勝ったのに、何にも得てない件

キャバ嬢と同伴。オープンラストでシャンパン二本。アフターで朝ラーメン。

完璧な流れ。世の“自称モテ男”たちが最も燃える一晩。まるで「これはチャンスだ」と言わんばかりのステージ構成。

なのに俺は——なぜか、朝5時に一人で味噌汁すすってた。

正直、ゆりな(仮名)との同伴が決まった時点で、周囲からの目は熱かった。「ついに〇〇も落ちたか」と思われただろう。確かにゆりなは美人だ。胸もでかい。声も甘い。喋りも巧い。

だが、俺には見える。営業スマイルの下にある「今日のノルマ、あと一本」っていう顔が。

レストランでは「いつも自炊してるから、外食うれし〜」と天使の笑顔。いや、ストーリーに毎日Uber Eats映ってるから。あれ全部他人のアカウントとか?新手のミステリー?

注文した前菜を見て「映える〜」と叫び、速攻で3分撮影。そのあと手をつけずスルー。心の中で「その胃袋、スマホ用か?」と毒を吐く俺。だが表情は一切崩さない。プロの皮肉師。

そしてシャンパン。開けた瞬間、歓声と同時に俺の頭に浮かぶのは“請求書”の2文字。

「〇〇くんのために飲むんだよ?」

いやいや、俺のために二本目いくな。むしろ水にしとけ。

俺はハイボール一杯で4時間耐久。トイレに立つふりして、バーの隅で「この金があればSwitch Lite買えたな…」と軽く現実逃避。

ラスト、アフター。

深夜3時、ラーメン屋で「スッピンでもいけるかな〜?」と言いながら、鏡見て3分固まるゆりな。うん、それもう“スッピン風メイク”っていう完成形や。

「このあと、どうする?」という定番の一言に、男として一瞬のざわめき。が、俺はもう知っている。

その先にあるのは、“割れた缶チューハイの残り香ただようビジホ”と“何かを間違えた朝”だってことを。

だから俺は言った。「じゃ、そろそろ帰るね」

ゆりな、一瞬ポカン。そのあと「あ、うん。じゃあまたね〜」とあからさまにテンション落ちる。知ってる、その“またね”の“また”は来ないやつだ。

でもいい。勝ったから。

俺はこの夜、理性に勝った。誘惑に勝った。自分の中のしょーもない男に勝った。

ただし、得たものはゼロ。財布の中はマイナス。翌日、虚無と胃もたれだけが残った。

でもいいんだ。これが俺の、誰にも感謝されない戦い。

理性の使いどころ、完全に間違えてるのは知ってる。でも誇らしい。ちょっとだけ。