マッチングアプリって、基本的に「まあ実物はこんなもんだよね」っていう、ちょっとしたがっかりを前提に構えておくものだと思っていた。ところが、ある日マッチした女性が、想像の遥か上をいく美人だった。正直、プロフ写真の3割増しで来られることはあっても、逆のパターンに出くわすことはそうそうない。
初対面、駅前のドトールで待ち合わせ。彼女が現れた瞬間、心の中で「うそでしょ…」とつぶやいた。芸能人かな?ってレベル。肌は透き通ってるし、髪はさらさら、服装もこなれててハイブランド感すら漂っている。待ち合わせに現れた自分の姿を一度見下ろす——ユニクロ、ちょいヨレ。絶望的に平民。
「はじめまして、りん(仮名)です。」と言われた瞬間、口から出たのは「えっ、ほんとに来たんだ…」という間抜けな一言。もうその時点で自己嫌悪で腹筋が攣りそうだった。彼女は笑って「何それー」と返してくれたけど、絶対100回は聞かれてるセリフなんだろうな、って察した。
さて、問題はここからだ。何を話せばいいのか。普通の女子なら「趣味は?」「休日何してるの?」とか無難な質問を投げておけばいい。でも、目の前の彼女は、ただそこに座ってるだけで場が華やぐレベルの美人。何を言っても薄っぺらく聞こえそうで、すでに自信喪失気味のこちらはテンパるばかり。
しかも、彼女は謎に聞き上手。沈黙も気にしないし、笑うタイミングも絶妙。「あれ?俺、話せてる?」という錯覚に陥りそうになるけど、それってつまり、向こうが完全にこちらに合わせてるってことだ。そう、まるで上司が部下に「いいね、それ」と言ってあげてるような上級テク。
何とか話を続けようと、好きな食べ物の話、最近観た映画、海外旅行の思い出…と、順に出してみる。でもどこかで、「俺、今、自分をプレゼンしてるな…」という虚しさが湧いてくる。しかも彼女の反応が「うんうん、そうなんだ〜」のテンプレすぎて、まるでAIとチャットしてる気分。いや、失礼だな。AIのほうがもうちょい突っ込んでくれる。
気づけば1時間経過。りん(仮名)がチラッと時計を見る。あっ、これはもう“帰りたい”のサイン。焦った僕は、咄嗟に「このあと時間大丈夫?」と聞いたが、「うーん、ちょっと用事があって」と爽やかにかわされ、終了。会計を申し出ると「じゃ、ありがとうね」と軽やかに微笑んで去っていった。颯爽と、まるで広告のワンシーンのように。
その後、メッセージは途絶えた。あれはたぶん、りん(仮名)の「義務出席」だったのだと思う。AIと会話してるように感じてたのは、逆だった。会話してたのは彼女の“営業モード”だったんだ。
結論。美人と話すときに何を話すべきか?
「背伸びしすぎないこと」と、「自虐を3割盛ること」。でも本音を言えば、話せると思うな、見せられてるだけだって最初から悟っておくと、少しだけ心が軽くなる。